薙野清香の【平安・現世】回顧録
(だって、崇臣がいるのに)


 従者が側にいる時に、わざわざ主人が動く必要はない。しかも彼は国の頂に立つ帝だった。当然、前世ではいつも崇臣を動かしていた。
 現世でも、これまでこういったことは無かったのだろう。崇臣が驚きに目を見開いている。


「主はここでお待ちを。俺が」

「いや……俺が行きたいんだ。崇臣はここで待ってて。芹香も」


 東條の有無を言わさぬ物言いに、崇臣はぐっと口を噤み、頭を下げた。基本的に主の命は絶対の男なのである。


(しかし、本当に意外だな)


 これまで、東條と清香が直接会話をする機会は少なかった。そんな清香とわざわざ二人きりになって買い出しを申し出る意図は理解ができない。


「それじゃあ、行きましょうか」


 東條はそう言って、清香のことを手招きする。清香は戸惑いを残しつつも、東條の後を追った。
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