薙野清香の【平安・現世】回顧録
「意外だと思ったでしょう?俺が買い出しに出るの」


 飲み物を買う列に並びながら、東條が清香に話し掛けた。崇臣の時とは違う形で、清香の心臓が小さく跳ねる。


(正直……東條さまとお話するなんて恐れ多いのよね)


 前世において、東條というのは雲の上の存在だった。中宮の女房だからといって、軽々しくお声掛けがあるわけではない。こちらから話し掛けるなど、言語道断だった。
 そんな東條が今、穏やかに微笑みながらじっと清香の返事を待っている。清香はゴクリと唾を呑んだ。


「えっと……少し驚きはしました」


 慎重に言葉を選びながら、清香はそう口にした。東條は想定内といった様子で、目を細めて笑っている。


(まさかとは思うけど、私と話したかった、なんてこと……ないわよね?)


 先ほどからずっと考えていたことだ。芹香と一緒ならまだしも、何故清香と買い出しを買って出たのか。恐らく皆、不思議に思っていることだろう。


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