ひと駅分の彼氏
「ごめんなさい! 通してください! この駅でおります!」


必死に人波に抵抗して前へ進もうとする。


それなのに少しも前に進むことができなくてジワリと涙が滲んできた。


これじゃまるでみんなが私の邪魔をしているようだ。


決してそんなことはないのに、胸の奥がズキズキと痛む。


そしてようやくドアが見える場所まで来た時、それは音を立てて閉まってしまった。


「真琴!!」


思わず大きな声で叫び、気がつけば頬を涙が濡らしていた。


まわりの乗客たちが迷惑そうな顔をこちらへむけていることにも気が付かず、私はドアに両手を付けてずっと真琴の名前を呼んでいたのだった。
< 65 / 108 >

この作品をシェア

pagetop