ひと駅分の彼氏
怒っているに決まってる。


いきなり私の前からいなくなって、ずっと音信不通で、今になって急に現れるなんてなにを考えているの?


そう言って罵ってやりたかった。


けれど何も言えない。


真琴は突然姿を消したときにはひどい気持ちに點せられたし、さんざん泣いた。


なんでどうしてと毎晩答えのない質問も繰り返した。


それなのに真琴をせめることはできなかった。


こうして私の前に戻ってきてくれて、いつもと変わらない笑顔を見せられると私は弱い。


心底、真琴に惚れてしまっているのだと実感する。


私はどうにか涙を押し込めると、表情筋を緩めた。


ようやくまともな顔ができる。


「怒ってない」


「そっか、よかった」


真琴は子供みたいに無邪気な表情で笑うと、ヒザの上に置いていた私の手を握りしめた。


それはあまりにも自然な動作で、手を握られたことに一瞬気が付かなかったくらいだ。
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