好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。

10.真夜中の来訪者、再び

 伯爵がアリスから話を聞いている間中、レヴィはとても気が気じゃなかった。
 ホールとアリスの部屋とを何度も往復し、事情をうかがうタイミングを待つ。

 その間、衰弱しているアリスのために、温かいスープやミルクを準備させた。心を落ち着けるためのアロマオイルや、追加の毛布、柔らかな夜着など、思いつく限りのものを手配した。少しでもアリスの心と体が安らぐように、と。


(本当に、一体何があったんだ?)


 通常ならば、ほんの数ヶ月であんなに痩せ細るなんてありえない。侯爵家できちんと食事を与えられていなかった――――そうとしか考えられない状況だ。


 何故?
 どうして?
 一体なんのためにそんなことをするんだ?


 どれだけ自問自答をしても、レヴィにはちっとも答えに行き着けそうにない。

 本当は今すぐにでもアリスの夫を――――侯爵を問い詰めに行きたかった。

 アリスの想いを踏みにじり、苦しめ、こんな状態に陥らせた元凶を、この世から消し去ってやりたかった。

 けれど、なけなしの理性がレヴィをこの場に縫い止める。

 彼が侯爵に報復をすれば、国全体を揺るがしかねない大問題に発展するだろう。平民が高位貴族に手を上げる――――とても許される行為ではない。伯爵家だって無事では済まない可能性もある。
 兎にも角にもアリスに話を聞いてからだ。

 ――――そう思っているのだが、どうしたって気持ちは逸る。全身をどす黒い感情が支配し、ちっとも抑えきれない。


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