好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
「――――そうと知っていたなら、娘を嫁がせたりしなかったのに!」


 伯爵は激しく憤り、泣いていた。
 当然だ。
 大切に大切に育ててきた我が子をないがしろにされ、平然としていられる親は居ない。

 レヴィだって当然平気ではいられなかった。手のひらに爪が食い込み、全身が燃えんばかりに熱い。


(許せない)


 許せるはずがない。
 レヴィのただならぬ様子に気付いたのだろう。伯爵は手のひらを下に向け、落ち着くようにと合図する。


「ひとまず、アリスはしばらくここで療養させることにしたよ。これからのことは私と侯爵とで話し合う。
レヴィ――――あの子のためにも、どうか今は堪えてくれ。頼む」


 伯爵にはレヴィの考えがお見通しなのだろう。深々と頭を下げ、懇願されてしまった。


「旦那様、しかし……」

「それより、朝になったらアリスの話を聞いてやってほしい。そのほうがあの子はずっと喜ぶからね」


 理屈は分かる。
 だが、心で理解ができない。
 レヴィは頷くことも首を横に振ることもせず、自室に戻った。


< 127 / 234 >

この作品をシェア

pagetop