好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
「中々会えなくなるんだぞ? メアリーは寂しくないの?」

「そりゃ……もちろん寂しいよ。だけどそう思っているのはわたしだけじゃない。使用人みんなが同じ想いだし、わたし一人がジェラルド様の時間をもらうわけにはいかないかなぁって」

「俺にとって、メアリーは特別な人なのに?」


 ジェラルドがそう言って、メアリーの手をギュッと握る。その瞬間、メアリーの身体がカッと熱くなった。


(特別って、そんな……)


 頭の中でジェラルドの言葉を反芻しつつ、メアリーは周囲をちらりと見遣る。幸いなことに、二人の会話は他の人間に聞こえていない様子だが、視線はしっかりとこちらに注がれていた。


「手紙書くよ。たくさん、たくさん書く。メアリーからの返事、待ってるから」


 ジェラルドの声音が切なく響く。先ほどから、彼の顔が真っ直ぐに見れない。熱い眼差し。握られたままの手のひらに力がこもる。


「……うん、分かった」

「なにかあったら言えよ。すぐに飛んで帰るから」

「そんなこと、絶対ないから大丈夫だよ」


 メアリーはただの使用人だ。ジェラルドの手をわずらわせるようなことがあってはならない。というより、そんな約束をできるはずがないのだ。


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