好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
 出発の朝、旅立つジェラルドを他の使用人たちとともに見送りつつ、メアリーは胸が痛くなる。


(ずっと一緒に居たはずなのにな)


 ジェラルドは段々遠くに離れていく。メアリーの手の届かない人になっていく。

 王都に移り住み、同年代の貴族たちと交流をし、たくさんのことを学んでいく中で、メアリーのことなどきっと忘れてしまうだろう。

 そして、貴族と平民との差を――――二人の間に越えられない壁があることを嫌でも実感するだろう。

 そうなれば、たとえジェラルドが伯爵家に帰ってきたとしても、メアリーとの関係がもとに戻ることはない。

 物理的な距離だけでなく、ほんとうの意味で、彼との別れのときが近づいていることをメアリーは実感してしまった。


「おいメアリー、どうしてすみっこにいるんだよ? 俺のこと、見送ってくれないの?」

「ジェラルド様……」


 けれどそのとき、他の使用人たちから離れたところに控えていたメアリーに、ジェラルドが声をかけてきた。彼は拗ねたような表情を浮かべ、メアリーの頬をそっと撫でる。メアリーの胸がドキッと跳ねた。


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