好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
「わたしはあくまで使用人の一人だもの。そんなふうに言ってもらう資格はないかなぁって……」

「だから! 俺にとってお前は特別だって言っただろう? メアリーのことを使用人だなんて、俺は思ってないよ」


 ジェラルドは一瞬――――本当に一瞬だけ、メアリーのことを抱き締めた。
 悲しくもないのに涙が出る。喉のあたりが熱く、言葉では言い表せない何かがせり上がってくるような感覚がした。


「ジェラルド様、わたしは……」

「待ってて。絶対、メアリーのことを迎えに来るから」


 あまりにも力強い言葉。イエス以外の返事が存在しない――――そんなふうに感じてしまうほどに。


(だけど、ここで頷くわけにはいかないわ)


 ジェラルドを待つなんてこと、メアリーには許されていない。迎えに来られたところで、二人の行きつく先は存在しないのだ。そうと分かっていながら、無責任に頷くことなどできない。メアリーはそっと俯いた。


「それじゃ、行ってくる」


 ジェラルドはメアリーの返事を待たず、彼女の頭を優しく撫でる。それから、満面の笑みを浮かべつつ大きく手を振ってきた。


「……行ってらっしゃい」


 
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