好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。

11.たとえ空っぽの手のひらでも(3章最終話)

 アリティアの来訪から数日が経った。
 伯爵家は表面上、平和な日々が続いている。
 けれどメアリーは、アリティアの言葉を思い返しては、一人で悩み続けていた。


『……私はね、本当に好きな人がいるなら、その想いは大切にすべきだと思うのよ。
数年前に陛下の妹君も身分の低い男性と結婚をなさったことだし、昔に比べて身分が絶対っていう風潮は和らいできた。結婚へのハードルだって下がってきているわ。形や体面ばかりを重視するせいで、中身が歪な結婚をするよりも、余程良いと思うの』


 アリティアにはメアリーの想いを見抜かれていたのだろうか? だからこそ、彼女はそんなことを言ったのだろうか? 分からない。


 けれど、メアリーの想いを貫くことは、アリティアの幸せを奪うことに繋がるはずだ。
 ジェラルドと結婚すれば、アリティアの願い――――ごく普通の政略結婚は叶うに違いないのだから。


 それでも、ジェラルドの顔を見るたびに、彼に名前を呼ばれるたびに、メアリーはジェラルドに惹かれていく。想いが強くなっていく。

 伯爵から接触を制限されてしまっているのか、ここ数日、屋敷内で顔を合わせることはないけれど、彼の存在を感じるだけでメアリー嬉しくて、それから悲しい。
 まるで答えのない迷宮に迷い込んだ気分だった。



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