好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
 お相手は身分が高ければそれで良いというわけではなく、見た目や教養に優れている必要があるし、政治的な要素も大きく絡んでいる。

 物語のように、身分の低い令嬢が知らない間に王子様に見初められ、声をかけられ、やがて結婚をするなんて都合のいい話は、現実では起こりようがないのだ。


(忘れよう)


 さっさと誰かと結婚をして、ステファンへの恋心は過去の思い出にしてしまうべきだ。そうしなければメリンダはずっと、失恋の苦しみを引きずることになってしまう。うじうじしながら生きることが良いとは、彼女にはとても思えなかった。


 と、そのとき、メリンダの瞳にとある人物の姿が映った。
 サラサラと美しい金の髪に、スラリとした立ち姿。高貴かつ上品な出で立ちに、見ているこちらの背筋が伸びる。それが誰なのか――――遠目からでもすぐに分かった。


(ステファン様だわ!)


 メリンダは思わず喜び――――それからすぐに肩をシュンと落とした。

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