好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。

2.夢のようなひとときと、残酷な現実

 風が静かに吹きすさぶ。
 人気のない回廊で、ステファンがメリンダを見つめていた。


「わ……わたくしのことをお呼びになったのですか、殿下?」


 こんなことは過去に一度もない。ステファンに呼び止められたことが俄には信じられず、メリンダは思わず目を瞬いた。


「ああ、そうだ。僕は君を待っていた」


 ステファンが小さく息を吐き、額の汗をそっと拭う。とても些細な仕草なのに、それだけでメリンダはドキドキしてしまった。


(やっぱりステファン様は素敵。本当に綺麗なお方だわ)


 どれだけ望みがないと分かっていても、恋心というものは簡単には捨てられないものだ。

 おまけに、こんなにも近くで彼を見るのははじめてのこと。いけないことだと分かっていても、ついつい見惚れてしまう。


(ダメよ、ダメ! ステファン様に対して失礼じゃない)


 こんなこと、王族相手に不敬極まりない行為だ。

 そもそも、どうして彼はメリンダのことを呼び止めたのだろう? もしかしたら、自分でも気づかないうちに、彼を不快にさせてしまっていたのかもしれない。メリンダの顔が不安で一気に青ざめていった。


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