好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
「申し訳ございません、殿下。わたくしは一体、どのような粗相をしでかしたのでしょうか……!」


 深々と頭を下げつつ、メリンダはギュッと目を瞑る。
 自分のなにが悪かったのか聞かなければ分からないあたりが情けない。おそらくはステファンも呆れてしまっただろう。


「粗相? 違うんだ、メリンダ。顔を上げてくれ」


 けれど、ステファンは目を丸くし、メリンダの肩に優しく触れた。


(違うの……?)


 良かったと胸をなでおろしつつ、彼女はそっと顔を上げる。
 ステファンはとても優しい表情でメリンダのことを見つめていた。目があった瞬間、心臓が大きく跳ね上がり、身体が驚くほどに熱くなる。


「あの……殿下はわたくしの名前をご存知だったのですか?」


 メリンダは大勢いる使用人のうちの一人でしかない。存在を認識されているかすら分からなかったというのに、ステファンは彼女の名前を呼んでくれた。
 愚問だと分かっていながら、メリンダは思わずそう尋ねてしまう。嬉しくて、幸せで、堪らなかった。


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