幼馴染みの秘めた溺愛  ~お前は女神でヒーローで
しん、と急に静かになった玄関。


まだ20代前半かな、ゆるふわが似合う可愛い子。
とりあえず…樹王のことを好きなのはわかった。


それから…彼女の言葉が毒を持ったトゲみたく心に刺さり、痛みがじわじわと広がってきた。


樹王の幸せ…

わかってる、私が邪魔してるのはわかってる。

でも…私も樹王が好きなの。
樹王と離れたくないの。
この気持ちはどうしたらいいの…?



…って今考えたところでこんな短時間で答えが出るわけでもなし。

おとなしく仕事の続きしよ…と玄関扉の鍵とチェーンをかけてリビングに行くと、樹王がソファにドカリと座ってた。


「…誰か来た?」

ふわあ…と大きなあくびを隠そうともしないのが嬉しい、ふふ。


「大家さんの娘さんが樹王にどうぞって」
とタッパーを渡した。

「何これ」

「お手製の料理みたいよ」

「…あ、そう」

それを一瞥すると興味なさげにそれをテーブルに置いた。

「嬉しくないの?」

「何で」

「あんな可愛い子が料理を差し入れしてくれたんだよ?」

「はぁ…興味ねぇよ」

「そうなの?」

「あぁ」

その答えに少しホッとするも、それを隠して言う。
「ふぅん。じゃ、あたしは仕事の続きするね」

「なぁ昼メシどーする?」


「…樹王はそれがあるからいいじゃない」と、タッパーを指差した。

冷たい言い方しちゃった…
手料理で嫉妬とか心狭いな、私。

「ハァ…」

心の中でため息をついたら、樹王のため息が重なって聞こえた。

「俺さ…ダメなんだよ、他人の手作りって」

「え?でも私のごはんは食べてるよね?あっうちのお母さんのも」

「だから、美桜とおばちゃんとおふくろのじゃないと食えねぇの!学生の頃から手作りの弁当はもちろん、菓子とかチョコなんかも無理で食ったことねぇし」

「うそ!知らなかった…」

「まぁ誰にも言ってねーし、美桜がくれたのは一緒に食ってたしな」

「じゃあそれ…」

「…悪いけど食ってくんねーかな」

「うん、いいけど…じゃあ樹王のお昼は何か作るよ。私の手料理は大丈夫なんでしょ?」

他人じゃない、って樹王に認められてると思ったらヤキモチが飛んでっちゃった…単純。

「あぁ。でも仕事あるんだろ?無理しなくていいよ、メシくらいどうとでもなるし」

「今なら大丈夫。ていうか気分転換したいから作らせて」

「さんきゅ。じゃあ何か手伝う」

「そうだなぁ…あったかいお蕎麦にするから…じゃあ蕎麦の実を収穫して石臼で挽いて粉にしといてくれる?」

「よっしゃ!んじゃ長野だな。戸隠のソバ畑行ってくる」

「いってらっしゃい!ついでに安曇野でワサビも」

「わかってるって!…ってそっからの手作りかよ!」

「あははは!」


こんなどうでもいい冗談のやりとりがすごく楽しくて、胸の痛みを一時的にだけど忘れることができた。
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