もう恋なんてしないと決めていたのに、天才外科医に赤ちゃんごと溺愛されました
 手を握ってどこへも行けないようにすると、蒼史さんが寂しげな笑みを見せる。

「やはり俺は君のような親にはなれない」

 その言葉だけを残し、蒼史さんは急いで病院に向かう。

 以前にも彼が言ったその言葉がどういう意味を持つものだったか、やっと理解した。

「……なれます」

 私がどんなにここで言おうと、蒼史さんには聞こえない。

 無性に胸が痛くて泣きたかった。

 幼い蒼史さんがクッキーを一緒に食べようと誘っても、きっと義両親は断っただろう。そのやり取りを想像するのは簡単だった。

 蒼史さんに温かな家庭をあげたい。彼にもそんな生活が許されているのだと教えてあげたかった。

 やっぱり優史の父親が誰かを蒼史さんに言うべきだろう。

 蒼史さんなら優史が傷つく選択をしないと、今なら確信できる。

 必要なのは私の勇気だけだ。
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