おとなり契約結婚〜幼馴染の小児科医が推しを盾に結婚を迫ってくる件〜

「ダメかな……?加賀谷さんのこと、本気で大事にするから」

 真剣に千春が欲しいと訴える仙堂から目が逸らせなくなる。
 男性にこんな風に見つめられるのは二度目だ。
 一度目は香月と波打ち際でキスをした時。
 頬を撫でる潮風と真っ直ぐな香月の瞳に吸い込まれて息が止まりそうになった。胸がジワリと温かくなり、身体から光が溢れていく。
 ルードリヒを観劇した時にわからなかった愛の正体がわかった気がした。
 千春の心がどこにあるか、頼りない心臓が理性を捨てられない頭の代わりに教えてくれる。
 いびつな心臓が痛いぐらいに鼓動を打ち、その存在を主張するのは香月だけだ。
 最初からわかっていた。この恋はきっと千春にとって最初で最後の恋になる。

「……ごめんなさい。たとえ離婚しても香月くん以外の人を好きになれそうにありません」

 千春は仙堂に頭を深々と頭を下げると、コーヒー代をテーブルに置いた。
 会釈しながら立ち上がり、そのまま店を出る。

「完敗かあ……」

 入口の扉が閉まった瞬間、心底悔しそうに仙堂が呟いたことを千春は知らない。

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