おとなり契約結婚〜幼馴染の小児科医が推しを盾に結婚を迫ってくる件〜
(つまり、真田さんは香月くんの元カノでも私の恋敵でもなんでもなくって……。ただ純粋に香月くんの小児科医としてのキャリアを心配していただけってこと?)
そうなるとひとつだけ疑問が残る。千春は香月に恐る恐る尋ねた。
「じゃあなんで香月くんの家に頻繁に出入りしてたの?」
「真田が家に出入りしていたこと知ってたのか?」
うんと頷いた千春に、香月は大きなため息をついた。
「真田は父さんの信奉者なんだよ……。父さんの書いた本も全部持ってるし、直接話が聞きたいって家まで押しかけてきたんだ」
「洋介先生のファンでしたか……」
真田が洋介のファンだと聞いて納得する。
第一線を退いたとはいえ小児心臓外科医として高名な洋介の元には、定期的に取材やメディア出演の依頼が舞い込んでくる。
著書を読んで感銘を受けたと直接クリニックに電話する人も少なくない。千春も過去にそういった電話をとったことがある。
「……ちぃ、悪いけどタクシーで家まで帰ってくれるか?学会が終わるまで残っていないといけないから今日は送ってやれない」
「あの……さっき真田さんが言っていたことって本当なの?私が好きだったって……」
「……真田の勘違いだろう」
「何で誤魔化そうとするの?」
この期に及んでのらりくらりとかわそうとする香月に悲しみを通り越して怒りさえ湧いてくる。離婚寸前の今でさえ本音を言ってくれないなら、結婚している意味がない。
「本当のことを言ってくれなきゃ離婚する!離婚して香月くんより素敵な人と再婚するから。香月くんの知らない場所で幸せに暮らす!」
子供のような脅しだった。千春が香月以外の男性を好きになれるはずがないのだ。