おとなり契約結婚〜幼馴染の小児科医が推しを盾に結婚を迫ってくる件〜


「こんにちは~。垣之内(かきのうち)薬品の仙堂(せんどう)です。納品に参りました」
「仙堂さん、こんにちは」

 午後の診療が始まるとすぐに、医薬品の卸売業者である垣之内薬品の営業担当、仙堂が納品にやって来た。
 宅配用のボックスバッグを肩から下ろすと、発注していた品物をカウンターに次々と置いていく。千春は品物の数を確認すると、伝票に受領印を押して返却した。

「今日は風が強いですね。川沿いの桜はほとんど散ってしまったようで残念です」
「そうなんですね」
「今年は忙しくてお花見に行けなかったんですよ。いつもならビール片手に焼き鳥でもつまむんですがね」
「うわあ……すごく楽しそうですね!」

 手首を傾けジョッキを煽るジェスチャーを見て、千春はケラケラと笑った。
 前任者の転勤に伴い、仙堂に営業担当が変わってからまだ三ヶ月しか経っていないのに、人見知りの千春ともう打ち解けている。
 仙堂は愛想が良く、納品以外のことでも千春に気さくに話しかけてくる。流行りのドラマや、時事問題、スポーツなど話題は豊富だ。

「俺、加賀谷(かがや)さんとお花見がしたくて連絡が来るのを待ってたんだけどな……?」
「す、すみません……」

 受領印の判子から苗字を知られ、ちょっとした雑談に応じるようになったのはひと月前のこと。仙堂からプライベートな連絡先を書いたメモをもらったのは二週間前のことだ。

 生まれてこの方、男性に言い寄られたことがなかった千春はどうしたらいいかわからず、メモをそのまま放置していたのだった。

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