おとなり契約結婚〜幼馴染の小児科医が推しを盾に結婚を迫ってくる件〜
「必要な箇所も埋まったし、ちぃの気が変わらないうちに区役所まで行くか」
「え?」
「今日の診察が終わったら一緒に行こう」
千春は思わず壁掛け時計を見上げた。時計の針は二時四十分を指している。
(今日の診察って……あと四時間もないけど?)
つまり、あと三時間とちょっとの間に覚悟を決めろということだ。
結婚ってそんなあっさりしていいものだろうかと、真っ当な疑問が浮かんでくる。
香月も千春もとっくに成人しているし、結婚に保護者の許可はいらないが、だからといって昨日の今日で性急に事を進める必要はあるのだろうか。
「逃げるなよ、ちぃ。お前の推しは俺が預かっているんだからな」
「うっ……」
すっかり怖気づいていた千春は痛いところを突かれ、思わずうめき声を上げた。いっそのこと清々しいほどの極悪人ぶりだ。
刃の切っ先が喉元に突き付けられているような絶望的な気分になりながら、千春は午後の診療の準備をするために受付カウンターへと戻ったのだった。