おとなり契約結婚〜幼馴染の小児科医が推しを盾に結婚を迫ってくる件〜
「香月くん、入っていい?」
「ああ」
香月から入室の許可をもらい、千春は部屋の中に足を踏み入れた。香月の部屋にはもちろん祭壇など存在しない。家具はグレーのシーツのかかったベッドとシンプルなシステムデスク。シルバーラックの中には小難しい医学書と趣味の推理小説が並べられていた。
「どうした?」
「男性用のタキシードのカタログ、私の方に混じってたから、ないと困るかと思って持ってきたよ」
香月は壁を背もたれにするように、ベッドの上に座っていた。胡坐をかいた太ももの上にはノートパソコン、傍らには学生時代から愛用している電子辞書があった。
「俺はなんでもいいから、ちぃが決めていいよ」
香月はノートパソコンから目を離さずにそう言った。
わざわざ持ってきたカタログを一瞥もしない香月に千春もついカチンときた。
「なんでもいいって言うなら、上下白のタキシードにバラでも咥えてもらおうかな?ついでに黄金塚風のポーズもとってもらおうっと!」
ほんのり怒りを滲ませ冗談めかして言うと、しまったと香月の頬がひきつった。
「……俺が悪かった。頼むから無難な黒のタキシードにしてくれ」
「最初からそう言えばいいの!」
香月なら白のタキシードも似合いそうだと思ったことは内緒にしておこう。千春の機嫌を直ったのを確認すると、香月は再びノートパソコンに向き直った。