おとなり契約結婚〜幼馴染の小児科医が推しを盾に結婚を迫ってくる件〜

「確かに私はヅカオタだけど、結婚相手にそこまで求めないよ……」

 小声で反論すると、香月は大きなため息をついた。

「誕生日になると必ず『キャロル』に連れて行かれたな。店舗購入者限定グッズが欲しいって言うから、朝から一緒に開店待ちしたこともあった」
「それは……!香月くんが勝手について来たんじゃない!」

 『キャロル』は黄金塚歌劇団を運営する親会社、梅田電鉄(うめだでんてつ)グループが経営する黄金塚歌劇団のグッズ直営販売店だ。ヅカオタなら劇場の次になじみ深い場所である。当然、千春もキャロルの常連である。
 
 三年前、黄金塚歌劇団の誕生百周年を記念したグッズが発売された際、千春がお宝をゲットしようと早朝から出掛けようとしたところ、夜勤明けの香月と遭遇しキャロルに同行されるという事態が発生した。
 
 千春はこの時大変気まずい思いをした。
 黄金塚ファンには男性だっているが、香月ほど面差しが整っている男性はほとんどいない。香月はヅカオタの好奇心を刺激し、女性から興味本位で話しかけられたり、明らかな逆ナンを仕掛けられていた。
 この一件以来、千春は香月をキャロルに連れて行くのをやめたのだ。

「まだまだあるぞ。ゴルステの契約の仕方も俺が調べてやったし、録画用のレコーダーだって一緒に買いに行っただろう?」
「う……!」
「こんなのまだ序の口だ。自分で思う以上に自分が立派なヅカオタだってことをちぃは少し自覚した方がいい」
「すみません……」
「わかったら大人しく俺にしておきなさい」

 これではまるで千春がモテない女性みたいではないか。香月が寛容なのは認めるしかない事実だが、世の中には大勢の男性がいる。ひとりくらいは千春を好きになってくれて、なおかつ趣味に理解を示してくれる人がいるかもしれない。例えば……。

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