おとなり契約結婚〜幼馴染の小児科医が推しを盾に結婚を迫ってくる件〜
「あのねえ、私だって男の人に言い寄られたりするんだから!」
「あの仙堂とかいう垣之内薬品の営業の男か?」
「何で知ってるの!?」
「由里さんが教えてくれた」
(由里さ~ん!黙っておいてよ!)
アットホームな職場で居心地はいいが、秘匿しておきたい情報まですべて筒抜けなのはいただけない。先ほどまでの勢いが急速にしぼんでいく。
「ちゃんと断ったんだろうな?」
「えーっと……。あのう……」
仙堂の件を糾弾され、千春の歯切れが悪くなる。実はまだ仙堂には香月と結婚した件について、キチンと伝えられていない。納品にやって来るタイミングが嚙み合わず、雑談を挟む暇が中々見つけられないでいたのだ。
「夫のお膝元で浮気しようなんて感心しないな」
「浮気!?」
「自分で断れないなら、次に来た時は俺を呼べ」
「わかった……」
「よろしい」
香月は満足そうに頷いた。こうなってくると、香月のいいように言いくるめられた気がしてならない。昔から口で勝てた試しがない。
なぜこんな散々な言われ方をされなければならないのか。千春にだって結婚相手を選ぶ権利はある。……婚姻届を提出してしまった今となってはもう手遅れだけれど。
千春は大きく息をはき、タキシードのカタログを胸に抱え直した。