おとなり契約結婚〜幼馴染の小児科医が推しを盾に結婚を迫ってくる件〜
「この限定サイン入りブロマイドがそんなに欲しいのか?」
「当ったり前でしょ!?」
「俺の名前で当選したんだから所有権は当然俺にあるよな?」
香月はしてやったりとばかりに口角を上げた。
「香月くん、いつから恵流様のファンになったの?」
千春に付き合って観劇に赴くうちに、とうとうヅカオタとして覚醒したのだろうか?
それならそうと言ってくれればいいのに。本当に水くさい。
「見当違いな勘違いするなよ。俺はブロマイドが欲しいわけじゃない」
「じゃあ何なの?」
「このサイン入りブロマイドが欲しいなら俺と結婚しなさい」
「は?」
正気か?と上目遣いで顔を見上げれば、香月が不敵に微笑む。
千春はブロマイドの入った茶封筒を眺めながら、しばし考え込んだ。
「えーっと。いくらなんでもブロマイドと引き換えに結婚しろっていうのは、ちょっとどうかと思うよ?」
お隣さん歴、二十六年。二人は千春がおぎゃーと生まれたその日からの付き合いだ。
千春の恥ずかしいあれやこれ、思い出したくもない黒歴史をすべて網羅している香月と結婚するなんて。
考えただけで恐ろしい。
正論という名のオブラートに包み、脅迫紛いのプロポーズをやんわりお断り申し上げたところ、香月はこれ見よがしに大きなため息をついた。