おとなり契約結婚〜幼馴染の小児科医が推しを盾に結婚を迫ってくる件〜
「ちぃ、起きろ。着いたぞ」
「ん……」
帰る途中、助手席で寝こけた千春は香月に身体を揺り動かされようやく目を覚ました。寝入る前は高速道路を走っていたはずなのに、いつの間にか香月の家のカーポートにワープしていた。なんてこった。
「……もう着いたの?」
「帰りは爆睡だったな。疲れてたのか?」
「あ、うん。そうみたい……」
昨晩はあれからよく寝られなかったのだ。早々に寝息を立てていた香月とは大違いだ。
千春は車の外に出るとあくびを噛み殺し、大きく伸びをした。
「なんかあっという間だったね」
「そうだな。一泊だしこんなもんだろう。次はちぃも一緒に風呂に浸かろうな」
ヨシヨシと頭を撫でられた千春は即座に背後を振り返った。
(今、なんて?)
どういうつもりなのかと訝しむように香月を仰ぎ見れば、ククっと意味ありげに笑われた。
「せっかく立派な露天風呂付きの部屋だったのに一緒に入れなくて残念だったな?」
「……っ!」
同意を求められ千春の顔が瞬時に沸騰する。つまり、千春が露天風呂を見て何を考えていたか、香月には筒抜けだったということだ。
「じゃあね!」
千春は香月から自分のボストンバッグ奪い取り、逃げるように家の中へと入って行った。