約束された結婚ーー鬼の花嫁は初恋相手と運命の相手に求婚される
「桜子ちゃん、そのまま聞いてくれ」

「はい」

 真っ直ぐ見据えられ、甘えた囁きで許しを請われたら流されてしまう。なので振り向かず話してくれるとこちらも助かる。

「美雪には触れていない。柊の大事な妹に手を出したりしない」

「美雪さんには? というと?」

「他の女の子はーーうん、それなりに。それでも責任が取れない真似はしてこなかったよ」

「四鬼さんが思っていなくても、相手の女の子は四鬼さんが好きだったんじゃないんですか? 好きにさせた責任はありますよ?」

「好きにさせた責任、か。そうだね、あるよね」

「偉そうにすいません。わたしが怒る事じゃない」

「構わない。僕は変わりたいから。関わった全員とまではいかないけど、謝ってくる」

 ふいに立ち止まる四鬼さん。前方にハザードランプを点した車があり、運転手さんがわたし達の姿が確認すると後部座席を開けてくれる。

「乗って」

「え、四鬼さんは?」

「鬼が隣に乗ったら怖いでしょ? 今の僕も何かしそうで怖い。柊も一時とはいえ、理性を無くしちゃうくらいだからさ」

「先生は8割噓だと言いました。わたしを脅かそうとしたんですよ」

「そういう意味もあっただろう。一族にとって君がどんな存在であるか示したかったとか。でも本当のところは柊にしか分からないよね。いいから乗って」

 ジェスチャーで乗車を促す。わたしに触れようとしない。おずおず着席すると四鬼さんは頷き、ガラスに手を付けた。指輪がかちりと音をたてる。
< 168 / 273 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop