約束された結婚ーー鬼の花嫁は初恋相手と運命の相手に求婚される


 貧血で猛烈な眩みを覚える最中、当主との夕食が始まった。四鬼家が運営に関わるホテルの最上階、贅を尽くした空間でグラスを合わせる。

「乾杯。さぁ、遠慮せず召し上がれ」

「あ、ありがとうございます」

 以前の事があるので、飲み物には口をつけるだけ。

「先程、病院から連絡が入ってね、夏目君の意識が戻ったそうだ。やはり鬼姫の力は素晴らしい」

 この顔色を見れば活力を涼くんに注いだと判断するだろう。わたしもわたしで彼の回復を確信してから病室を後にした。
 それでも意識が戻ったと聞くとホッとはする。

「まぁ当主の立場としては一族以外の者に慈悲は掛けないで頂きたいが、これまで姫の食料として勤めた報酬としておく」

「わたしは涼くんを食料だなんて考えていません」

「考えていなくとも、事実を述べたまでだ。対価には報酬が必要だよ、姫」

 当主はグラスを回し、ワイン越しに微笑むと報酬を求めた。

「涼くんが無事ならわたしはそれだけでいいです。沖縄に連れてきて下さり、ありがとうございました」

 棒読みのお礼に当主が頷く。

「これからどうするつもりなんだい?」

「これから?」

「衣食住、それから学校は?」

 手付かずの前菜が下げられ、温かなスープが運ばれてきた。

「私は姫を養女として迎え入れたい。四鬼桜子として鬼月学園へ通ってみてはどうかな? 私の娘となれば生活基盤は整う。不便はしないはずだ」

「……娘」

「無論、私の妻として迎え入れるのもやぶさかでない。端的に言ってしまえば鬼姫を懐に入れられればいい」

「つ、妻はちょっとーー」
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