約束された結婚ーー鬼の花嫁は初恋相手と運命の相手に求婚される
 当主は洗練された所作でスープを口にする。
 鬼にとって吸血や異性との交流の方が栄養価が高く、美味しい。当主から味の感想は出てこなかった。
 ひたすらパフォーマンスみたく咀嚼して、鬼だからと言われてしまえばそうだが人間味を感じられない。

「姫にはあまり迷っている時間はないんじゃないか?」

 紙ナプキンで拭い、次の皿を促す当主。含みを持たせた言い回しでフィッシュナイフを手に取った。

「千秋や柊に相談しようとしても無駄だよ。彼等は今、それどころじゃないだろう」

「どういう意味ですか?」

「あぁ、とある少女が鬼になろうとしてね。少女は千秋に執心で、柊が研究した鬼になる薬を飲んでしまったそうだ」

「え……」

「柊は少女の元へとんぼ返り、千秋も少女につきっきり。つまり、ここには私と姫しかいない。そういう意味だ」

「美雪さんが? そんな……」

「ほら、姫も無理してでも食べておいた方がいい。そろそろ夏目涼に血を与えた反動が大きく出てくるぞ。その際は私の血を飲めばいいが、デザートを食べてからにして欲しいな」

「待って下さい、話が見えなくて」

 反動を指摘された側から、ぐにゃりと視界が歪む。

「話が見えない? よくよく振り返ってみなさい。何故、柊の妹ごときが私に連絡をつけられたのか? 柊が薬を隠すとすれば保健室しかないと教えたのは誰か分からない?」
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