約束された結婚ーー鬼の花嫁は初恋相手と運命の相手に求婚される
 かつて鬼姫であった者等は口を揃え、わたしにこう教えた。

【歴代の鬼姫は四鬼の花嫁となり幸せになれた。桜子、運命を違わないで。約束された結婚だけがあなたを幸せにするわ】

 約束された結婚、約束された幸せ。これが呪い似た願いだと気付く。
 確かに幸せな結婚になれた事もあったのだろう。四鬼の花婿を愛し、愛される運命が心地良かったんだろう。けれども当主の態度はどうだ? 鬼姫を子供を産む道具にしか見ていないじゃないか。

 時を経て、擦り切れて薄っぺらくなった誓い、わたしはいつまで縋り続けなきゃならないの?

「ーーそっか、わたしは待っているんじゃなく探しに行ったのね」

「? 何だ? 何がおかしい?」

「わたしは桜の木の下で四鬼さんが迎えに来てくれるのをずっと、ずっと待っていた。そこに浅見桜子が来たの」

 本物の浅見桜子は桜をスケッチしに来て、わたしが見えていた。待ち人の話を打ち明けると彼女は早く来るといいねと言い、筆を走らす。

「自由に動く筆を眺めているうち、完成した絵が見てみたいと思った」

 浅見桜子は繋がれていた約束から踏み出せる切っ掛けをくれた。

「下らない昔話なぞ、付き合っている暇はないーーっ!」

 わたしはテーブルへ手を伸ばし、グラスの中身を当主に浴びせた。隙きをつき駆け出そうとする。
 が、すぐさま床に押し付けられていた。
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