約束された結婚ーー鬼の花嫁は初恋相手と運命の相手に求婚される
「こちらが下手に出てやってるのに、ふざけた真似をするな! 鬼姫の力が使えなければ単なる女でしかない、生意気言うんじゃない」

 髪からポタポタと滴を落として見下す。

「これが最後通告。大人しく私の言う通りにしなさい。そうすれば優しくしてやる」

「これで優しく?」

 組み敷いておきながら、よく言えると鼻を鳴らしてそっぽを向く。すると顎を掴まれた。

「この可愛い顔に傷を残したくないだろう? 私も殴りたくはないが、口の聞き方がなっていない人形には躾をしないといけない」

 告げられたのと同時、口の中に血の味が広がる。手の甲で叩かれたと把握すると2度目の衝撃に襲われた。

「千秋も昔はこうして躾けてやったな。あれも小さい頃は反抗的な態度ばかり取っていた」

「っ、子供を殴るなんて最低!」

「まだ逆らうか!」

 当主はわたしの首に手をかけ、片足をみぞおちへ乗せる。恐怖心を煽ってわたしの心を折ろうとしているのだ。

 事前に人払いをしているらしく、誰も止めに入る気配がない。当主の腕に必死で爪を立てて抗う。

「離して、離せ!」

 足をばたつかせ、もがく。

「夏目涼」

 当主がぽつり、呟いた。

「え?」

「服従しないのなら夏目涼を使おうか? 彼、サッカー選手を目指しているんだって? 足を怪我したらどうなるのかな? あぁ、私はサッカー協会とも繋がりがあるんだ。たとえ怪我を治してもプレイする場所を取り上げる事が可能だよ」

「卑怯者! 軽蔑する!」

「私は交渉している。取引きだよ、姫」
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