約束された結婚ーー鬼の花嫁は初恋相手と運命の相手に求婚される
 吐き気がする。貧血起因ではなく、心から当主を嫌悪して吐き気をもよおす。

「涼くんを人質にすれば、わたしが従うと思ってるの?」

「そうする他ないだろう? 姫の身辺を徹底的に洗い出した結果、夏目涼がいちばん有効な取引材料だ」

「食料と言ってみたり取引材料と言ったり、涼くんを軽々しく扱わないで!」

「夏目涼だけでは不足ならば、姫の元両親や千秋、柊、それから美雪にも不幸な目に遭って貰おうか?」

「ーーっ!」

 勝ち誇った顔でわたしを起き上がらせると、当主は片膝をつく。そして握り締めた手の甲へ口付けを落としてきた。

「これは、なんの真似?」

「忠誠を誓う儀式だな。姫が私の伴侶となり後継者を授かる。これは一族の悲願だからね」

「脅しておいて忠誠? 冗談じゃなーー」

 悪態をついてる途中、今度は壁際へ追いやられる。後頭部を強く打ち、眩む。甘く纏わりつく香りに追撃され力が抜けそうになった。

「絶対に嫌、あなたになんか従いたくない!」

「まだ私を睨むか。恐怖で支配するのは好まないのだがな!」

 腹部を蹴られ、悲鳴を上げさせない為なのか首が締められる。当主は片手で軽々とわたしを持ち上げ、爪先が浮く。

「姫、私の物になると言え!」

「っ、や、嫌!」

「夏目涼等がどうなってもいいのか?」
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