声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました
 約一年ぶりに声が出たこと、そして最後にお兄さまに想いを届けられたことがなにより嬉しくて私は涙を流してしまいます。
 そして私は最後に微笑むと、また振り返ってゆっくりと階段を上り始めました。


 さようなら、お兄さま。


 その言葉をつぶやいた瞬間、私の身体は激しい衝撃で揺れました。
 気づけば誰かに後ろから抱きしめられていて、いえ、誰かではないですね、この香り、この優しい腕は……。


「お兄さま……」
「ローゼマリー」

 耳元で名前を呼ばれてドキリとする。

「ごめん、私は……私は……ダメな兄だ。君をずっと好きで仕方なかった。だけど、見ないふりしてた、知らないふりをしてた」
「お兄さま」
「君の声で、君の思いを聞けて初めて私は自分を動かすことができた。情けない。もっと早くに君を引き留めるべきだった」

 お兄さまは消え入りそうな声で私に想いを伝えます。

「ローゼマリー、行くな。行かないでくれ。私の傍にいてほしい」
「でも、でも私はヴィルフェルト家の娘として、行かなければなりません」
「では、私とここから逃げよう。一緒に」

 その言葉にオリヴィエ王子が沈黙を破るように、宣言しました。
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