声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました
「もしかして、文字が書けないのかい?」

 私はゆっくりと申し訳なさそうに頷きました。
 怒られてしまうのではないか。
 そう思った私でしたが、ラルス様は私にずいっと身体を近づけると、優しく頭をなでてくださいました。

「そうか、大丈夫だよ。謝らないでほしい、君が悪いわけじゃない。君を怒ったりしないよ」

 頭の上を何度も滑る優しくて大きな手は、とてもあたたかくて心地よいです。
 時間というのはこんなにも穏やかなんでしょうか。
 心も身体もあたたかくて、お日様にあたっているようなそんな感じがしました。

「これからは私は君の兄になる。血は繋がっていないけど、君が心を許してくれたら、家族のように思ってほしい。ゆっくりでいいから」
「(こく)」

 私はそんなありがたいこと、いいのだろうかという思いで遠慮がちに一つ頷きました。
 私の返事を聞いてラルス様はにこりと微笑んだ。



◇◆◇


< 7 / 131 >

この作品をシェア

pagetop