敏腕秘書による幼なじみ社長への寵愛
「いえ、精通というほどでは……」
「うちの別荘にほかの絵もあります。今度見に来ます? 招待しますよ」

別荘?

会話内容から飛躍した急なお誘いに困惑し、目線を泳がせた私は、こちらに向けられる射貫くような視線にハッとした。

「来週辺りはどうですか? 改めて会社にご連絡しますね」

勝手に話を進める桜木社長は、戸惑う私と間合いを詰める。
至近距離でニッと唇を広げて笑い、私の肩に手を乗せた。

「ぜひ、ふたりきりで」

スパイシーな香水の匂いがキツい。触れ合う部分から焦燥が生まれる。
背中がゾッとして、今すぐに手を離してほしいという欲求が湧き上がってきた。

形容できない居心地の悪さを感じたとき。

「珠子さん」

耳に届いた優介の声に、私は瞬間的に安堵を抱く。

登場した矢先、私の肩に置いた桜木社長の手を冷酷な目で睨んだ。

「ナイトの登場ですね」

桜木社長がクスリと笑い、手を離す。

「それじゃあ珠子社長、楽しみにしてますね」

片手を挙げて去っていく桜木社長に、私たちは一礼した。

別荘にふたりきで、って……。きっと、社交辞令だよね。

「珠子さん、彼になにかされました?」
「へ⁉」

声が上ずった。
隣に立つ優介の肩は小さく上下していて、息が乱れている。

私たちがふたりきりでいるのを見て急いで来てくれたのかと思ったら、さっき桜木社長に触れられたときとは違った種類の甘酸っぱいドキドキが体中を支配する。

「別に、なにも」
「それならよかったです」

やわらかい眼差しで見つめながら、優介は私の手を取る。

「な、なに⁉」
「緊張したような顔なので」
「っ……」

桜木社長に触れられて体が強張っていると優介に看破され、ドキッとする。
それにここのところ優介のぬくもりが枯渇していたからうれしくて、胸の奥がきゅんとなった。
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