敏腕秘書による幼なじみ社長への寵愛
でも、こんなところで社長と秘書が手を繋いでいるのは、周りから見たら変に思われるだろう。

「優介、離し」
「嫌です」

何食わぬ顔で答えた優介は、手の力を強めた。

……嫌です、って。子どもみたい。

「さっき別荘に誘われてましたよね、聞こえました。桜木社長には警戒してください」

優介は真剣な目で続ける。

「男をみくびらないでください。なにかあってからでは遅いです」
「……なにかって、なに?」

低い声でつぶやいた私は、うつむいて優介の手を強引に剥がした。

「大丈夫よ。現にふたりきりでいても、優介とはなにもなかったじゃない」

声が震えた。
泣きそうだと勘づかれるのが嫌で、優介に背中を向ける。

その直前に、彼は目を見開いた。
これほど顕著に驚く様子は珍しい。

「あのね、もう好きにしていいんだよ? 自由になっていいよ」

怯まないように、喉と足に力を込める。

喉は焼けたようにヒリヒリと痛いし、地盤が歪んだのかと錯覚するほど足もとは頼りない。

「……なんのことですか?」 
「私、優介を縛りつけていたよね。今まで優しさに甘えてごめん。だけどもう、大丈夫だから」

肩越しに振り返ると、突然の解雇宣言に直立不動の優介が潤んで見えた。

「心外です。俺はそんなつもりはありません」

眉根を寄せ、きっぱりと断言した優介が差し伸ばした手を振り払う。

「でも、私はそうしたいから」

やっと言えた。これで終わりだ……。

伝えれば心が軽くなると信じて疑わなかったのに、思い通りにはならず、むしろ余計に苦しくなるばかりだった。
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