敏腕秘書による幼なじみ社長への寵愛
……なんだか眠たくなってきた。
ここ何日か、まともに眠れない日が続いている。

目蓋が重くなるけれど、これも仕事の一貫だという最低限の理性を駆使し、私は桜木社長の話に相槌を打った。

「沖田くんも、美術部だったの?」

前触れなく話題が変わり、私は大げさに肩を張り上げて反応する。

「いえ、違います」
「そうだよね、彼はスポーツマンだよね。着衣の状態でもすごく体がガッチリしているし、若い頃からなにかスポーツをして今も鍛えてるでしょ?」
「さあ……」

学生時代はずっと空手をやっていたけど今はわからないので、私は愛想笑いを浮かべて首を傾げる。

「けどさ、中学生の頃から就職してまでずーっと一緒なんて、すごく長い付き合いだよね。ふたりは喧嘩とかもするの?」

中学どころか四歳からずーっと一緒だ。
小学生の頃、ドッチボールに誘って断られた苦い経験を思い出し、悲しくなってきた。

「今、まさに喧嘩中というか」
「へえ! そうなんだ」

桜木社長の声のトーンが一段階明るく変化した。なぜか興味津々に楽しんでいるように見える。

「喧嘩中だから今日はついて来なかったんだ、彼」
「今日は、ここに来ることを話していません」
「え! そうなんだ」
「なんか、その……」
「心配性なんでしょ? 見てたらわかるよ」

桜木社長は目をきつく細めて微笑んだ。

「珠子社長、こっちも飲んでみる?」

スツールから立ち上がり、今度は優介セレクトのワインを持ってくる。

「いえ、私はもうたくさんいただいたので」
「え、酔っちゃった? せっかくだし一杯だけでも」
「いや、でも」

グラスになみなみと注ぎ、無理やり私に持たせた。

「ちゃんと食べてれば悪酔いしないし、俺が保証する」
「はあ……」

許容量はもうとっくに超えている。
けれども強引な桜木社長に断るのが面倒になり、私は仕方なくちびちびグラスに口を付ける作戦でいった。
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