敏腕秘書による幼なじみ社長への寵愛
「な、なんだ⁉」

桜木社長の緊迫した声に、空気が一変する。

なにごと……?

朦朧とする意識の中で、誰かが突然ここに入って来て、桜木社長が体を大きく揺らすほど驚いているのはわかった。

苦しさ堪えて薄目を開ける。

「珠子さんを迎えに来ました」

聞き慣れた耳心地のいい声と、目の前に現れた人影は夢かと私は目を凝らす。

「ゆ、優介……?」

見たこともないほど怖い顔をした優介がうなずいた。

不安な私に神様が見せてくれた幻とかじゃないよね?
夢でもいい。会えてうれしい……。

私が素直にそう思う間、優介はズカズカと大股でこちらに近づくと、狼狽する桜木社長の手を乱暴に払う。

「ど、どうしてここが⁉ 珠子社長はきみに知らせなかったって……」
「奥口さんから聞きました。桜木社長の情報はほかにもいろいろと」

そして桜木社長から奪うように、私の体を抱き寄せた。

「へぇ。俺も奥口から聞いたんだけど、きみたち中学生時代からべったりだったんだろう? そうやってイチャイチャしてたんだ」

イチャイチャなんてしてないし!と、否定したくて喉をグッと力ませたとき。

「はい」

優介が事もなげに答える。
いや違うでしょ、食い気味に肯定しないでよ……!

「珠子さんも社長なら見聞を広げるために、これからは他の男も知っておくべきだよ」

憐れむような物言いをして、桜木社長はニヤリとほくそ笑む。
すると、私の肩を抱く優介の手に、力が込められるのを感じた。

「他の野郎なんて要らないんです。知る必要ないんですよ」

怒気を含んだ声色に、桜木社長が一瞬顔を引きつらせた。

どさくさに紛れてまた私の行動を制限しようとしているのは癪だけれど、一触即発の雰囲気に口を挟めない。
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