敏腕秘書による幼なじみ社長への寵愛
私はぽかんと口を開け、今聞いた話と当時の状況を整理する。

「店の前で、コケた……?」
「はい、沖田くんが支えたくれたので、転ばずには済んだんですけど」

奥口さんは恥ずかしそうに微笑んだ。

たしか道端でふたりが密着し、抱き合っているようには見えた。けれども前後の状況まで確認できたわけじゃない。

優介は転びそうになった奥口さんを支えただけだったの?
密着したシルエットがあまりにもショックで、私が勘違いしてしまったのかも……。

「それでは、私はこれで失礼します」
「あの!」

踵を返した奥口さんを、私はとっさに引き留めていた。

「はい?」
「あ、ええと……」

紙袋を持つ手をギュッと強く握りしめる。

「奥口さんは、今でも優介がかわいそうだと思いますか?」

彼女から言われた言葉が、まるで小骨のように、ずっと心に引っかかっている。

他人の目に優介がかわいそうに映っているのなら、彼に対するネガティブな印象を変えたいと思ったのだけど。

「沖田くんが、かわいそう……?」

勇気を振り絞った私の質問に、彼女はただただきょとんとしている。
もどかしいので、私はブルームで彼女が発した台詞を復唱した。

すると、腑に落ちた顔で奥口さんはパチンと両手を合わせた。

「ああ! あれは沖田くんがかわいそうと言ったわけではなくて、ファンの女の子たちがかわいそうだったなと思ったんです。絶対に報われないから。まあ、自分も含めてなんですけどね」

へへっと弱ったふうに笑う奥口さんを見て、私は肩から力が抜け落ちていくのを感じた。

優介がかわいそうに見えていたわけじゃないんだ……。

胸のすく思いで、奥口さんが社長室から出て行くのを見送った。
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