あのスーツ男子はカクテルではなく土の匂い
 
 その日は本当に久しぶりに他の男性客が隣に座ってきて、話しかけられた。

 その人もそれなりのイケメンスーツ男子だったのだが、何故かソファの彼が気になっていたせいで、受け答えが適当になってしまい、呆れた顔をして隣の彼は早々に撤退した。

 「玲奈さん、ソファの彼が気になります?」


 バーテン君がおかわりをテーブルに持ってきたとき、つぶやいた。

 「……え?ええと……」

 私は、突っ込まれて目を白黒させてしまう。

 「教えてあげますね。彼も割と常連さんです。そうですね、玲奈さんの少し後から来るようになりました。ペースは玲奈さんよりも少ないですけど、コンスタントにご来店されますよ」

 「そ、そうなんだ。ふーん」

 「ルックスが玲奈さんの好みですか?」

 「そうね。すごくいい色に日焼けされてるなあ、なんて」

 「ああ、そうですね。男としてはやはりあの体格が気になりますよ。なかなか、この店では見ないほどの素晴らしい体格ですよね」

 そ、そうよね。私もそう思うわ……と言いたいところだけど、恥ずかしいから答えないで置こう。

 彼は、今日も飲み終わると席を立ち、チェックとこちらに示して立ち去った。

 
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