あのスーツ男子はカクテルではなく土の匂い

 それから、私は水曜日にできるだけ行くようになった。

 そうすると、高確率で彼に遭遇すると知ったのだ。


 バーテン君が私の様子を見て、まあ、同じくらいのペースですねと小さい声で教えてくれたからとりあえず来ている。

 私がただ、見つめるだけでなにも行動に起こさないタイプと知っているから、バーテン君もこんな情報教えてくれるのだろう。

 
 バーテン君には最初の時に話してある。

 私の過去を話して、ここに来る目的も癒やしであると宣言した。


 多分、言い寄られないと安心したのか、バーテン君から話しかけてくるようになった。
 
 その後バーテン君は私のことを心配して、専属になってくれた。

 そしていつの間にか、私が行くと他のバーテンさんは彼に目配せしこちらへ来ない。

 
 バーテン君はとてもモテる。

 お客様でもグイグイ来られるとなかなか大変だと小声でこの間も言っていた。

 私のようにどうでもいいお客が一番扱いやすく、話しかけやすいということを言いたかったようだ。


 私が男性に距離を置いていて、観賞のみで満足しているのには実は訳がある。
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