失恋のカノン
「いいなあ、って。こんな情熱的にピアノを弾ける人がいるんだって。全然知らない人だったけど、たまに見かけるときはそんなことないのにピアノを弾くときはなんて感情豊かな人なんだろうって。その音色も好きだった。だから簡単に否定しないでほしい」

私が好きになった人だ。そして彼は知っていたはずだ。
少なからず思われていたってことは。

「私はよく知りもしない貴方のこと、好きだよ」

ほら、貴方は驚かないでしょう。少し、動揺はしているかもしれないけれど。
彼はずっとこちらを見据えていた。一瞬も目を離さずに。

「ごめん」

私は微笑んだ。彼がピアノをやめるといったときから既に失恋していた。

「うん、でもさ、ピアノは弾いてくれてたら嬉しい。だって私ファン一号で、有名になったら超古参として鼻が高いじゃん?」

「うん」

「まあ、考えてみてよ」

二人はブランコから同時に立ち上がった。すっかり陽は落ちていた。
そこから卒業し、大人になったあとも連絡を取ることもなかった。
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