Filigran.
「さすがに毎回はしないけどさ」
「喜ぶかなと思って」
さっきまでは『怖い』が勝っていたけれど、
こうやって雰囲気を和らげてくれてから改めて見ると、
「良いなぁ…」
いつもは清廉潔白な弓弦君だからこそ、
治安が悪くなった時のギャップが凄い。
しかも昨日とは違って仄かにムスク系の香水なのが分かるから、
ドラマで見ていたヤンキー役の彼が、この近さにいることを実感してしまう。
私がまじまじと見ていると、
嬉しそうに微笑んでいた彼が一瞬でハッとした顔になって、
「…もしかして雪乃の好きなタイプって不良?」
「柄が悪い人なら誰でも着いていっちゃうんじゃないの」
と訝しげにこちらをジッと見てくる。
その言葉に私は、
「違います!弓弦君だからギャップがあって良いなって」
とファンの習性として反射的に返答するしかなかった。
私の勢いに一瞬圧倒されたように目を見開いた彼は、
すぐに眦を下げて「だよね」と呟いた。
「じゃあ帰ろう?」
そう優しく言う彼の隣に並んで、私達は駅までの道のりをゆっくりと歩き始めた。