大食いパーティー、ガーデンにて奮闘する
「あの自称冒険者も偽物だったってことかしら」
 リリアナが大きな一口でソバパスタを頬張る。
 やはりヨアナの店が一番ソバの風味が際立っていて美味しい。
 
「さあな。首輪の呪いを知らないってことは、少なくとも実際にペット登録したことのない人間だろうな」
 ハリスが苦笑する。
 
 トカゲはともかく、コハクのように毛で覆われている生き物は汚れた時に水やお湯で洗い流すことがあるし、海や川で泳がせることだってある。そういう時もしも知らずによかれと思って首輪を外したらペットが死んでしまう。
 ペット譲渡の際にはこの注意事項を必ず相手に伝えておかねばならない。
 それを仲介役を担っていたブルーノ会長が知らなかったということは、おそらくあの自称冒険者も知らなかったのではないだろうか。
 この推察が当たりか否かは今後の追跡調査を待たなければならないが、これまでこの街で行われていたペット取引はすべて偽物だったに違いない。

「ソバパスタを追加で3人前お願いします!」
 テーブルにガレット各種を運んできた給仕に、リリアナが元気よくおかわりを注文する。
 前回の来店では面食らっていた給仕も、二度目ともなれば余裕の微笑みを返してくれた。

「そもそもドラゴンをペットにできる冒険者なんているのかしらね?」
 服従せざるを得ないほどドラゴンを圧倒できる人間が、あるいはドラゴンが絶大な信頼を寄せる人間がいるんだろうか。
「聞いたことがないな」
 ハリスがソバの実リゾットをスプーンですくって口へ運ぶ。
「もしもわたしがドラゴンをペットにすることがあれば、どんなにお金を積まれたって絶対に手放さないわ」
 リリアナの足元で生肉を食べていたコハクがピョンと膝に乗ってきた。
「もちろんコハクだって、誰にも渡したりしないわよ」
「にゃあっ」
 額を撫でるとコハクが嬉しそうに目を細める。

 ソバの実を衣に使ったチキンカツも絶品だ。
「ブルーノ会長は本当にあのトカゲがドラゴンだと思っていたのかしら」
「審美眼がまったくなさそうだったからな」
 ハリスによれば、リリアナが警備隊を呼びに行っている間ブルーノ会長はずっと、
『騙された! 俺は被害者だ!』
と喚き続けていたというのだから呆れてしまう。

< 74 / 145 >

この作品をシェア

pagetop