大食いパーティー、ガーデンにて奮闘する
 最後はソバ粉のクッキーとソバ茶でソバのコース料理が締めくくられた。
 合間におかわりを挟みながら、ソバのもちもち、つるつる、プチプチ、サクサク食感を存分に堪能できたリリアナとハリスは大満足している。
 
 そこへ、厨房からヨアナが出てきた。
「いかがでしたか」
「商業区でいろんなソバ料理を食べましたけど、ヨアナさんの作るお料理が一番です!」
 ヨアナがにっこり微笑む。
 そんなヨアナに、どうしても腑に落ちないことを尋ねた。
 ちょうど今なら店内にいる客はリリアナたちだけだ。
 
「ヨアナさんは、ペットが偽物だって知っていたんじゃないですか? ブルーノ会長が逮捕されてもよかったんですか?」
「あの人、子供のころから見栄っ張りなんです」
 ヨアナが眉を八の字して困ったような顔で笑う。
「商談に行ったラシンダの王都で田舎者だと馬鹿にされてからは余計にそれがエスカレートして、騙されて偽物ばっかり掴まされて……。幼馴染の私がなにを言っても聞かないから、どうしようもなかったんです」

 やはりペット取引疑惑をガーデン管理ギルドにタレこんだのはヨアナだったようだ。
 あの倉庫に赤い石がつけられた生き物が隠されているのを偶然見つけたのだろう。元冒険者なら、赤い石を見てペットの違法取引の可能性と、その石がチープな偽物であることにもすぐに気付いたに違いない。
 
 きらびやかなものが富の象徴だとは限らない。この大陸で唯一マルド地方でのみ栽培されるソバの実は、地味で素朴な見た目とは裏腹に豊かで独特な風味を内包し、あらゆる料理に化ける。それを思う存分堪能できることがどれほどの贅沢か、ブルーノ会長にはわからなかったんだろうか。

「でも、会長が逮捕されてしまったら商会はどうなるんでしょう?」
 ペットの違法取引かと思いきや、ただの詐欺事件だった。
 本物のペット取引に比べれば処罰は軽いはずだが、商会の評判がガタ落ちすることは間違いないし、ヘタすれば倒産だ。

「行く当てがなくなったら、うちの店で雇って皿洗いでもやらせようと思っていますから、ご心配なく」
 すっきりした顔で笑うヨアナを見て、リリアナも清々しい気持ちになった。
 ハリスもそれに同調する。
「あの商会の建物を買い取って、店を大きくすればいい」
 するとヨアナがおどけた声で言った。
「あら! じゃあシェフが足りないから、ハリス先生が冒険者を引退したらうちで働いてもらおうかしら!」
「それもいいな」
 ハリスがあごを撫でている。まんざらでもない様子だ。
 そしてちゃっかり、ソバ粉のガレットの水の配合量をヨアナから聞き出して熱心にメモしている様子にクスクス笑うリリアナだった。
 
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