愛されていると勘違いしそうなのでこれ以上優しくしないでください【コミカライズ原作】
お花見中ずっと付けていた桜の花が付いた小枝をそっと抜き取る。
少し萎れてしまったけれど、ピンク色の花びらが幾重にも重なってとても可愛らしい。

――誕生日おめでとう

ふいに社長の優しい声がよみがえって心がぽわっとあったかくなった。
この思い出だけでしばらくは頑張れそうな気がする。

なんて単純なんだろうと思いながら、桜が崩れないようにそうっとカバンにしまった。
ずっと取っておくためには押し花にでもしたらいいだろうか。それともドライフラワー?

そんなことを考えながら仕事をしていたらあっという間に定時をむかえた。

ささっと帰り支度をして「お先に失礼します」と挨拶をし、会社を出る。
バス停に近づくにつれ足取りが重くなっていく。
あの家に帰らなければいけないからだ。

今日の夕飯は何にしようかぼんやりと考えつつ、気持ちは鬱々と下降気味。
昼間あんなに楽しかったのが嘘みたいに、きっと私の顔からは表情がなくなっているに違いない。

だけど――。

そっとカバンを覗き込む。
桜の花が目に飛び込んだ瞬間、ぐっと気分が向上する。

やっぱり私は単純だ。
今日はいつもより頑張れそうだもの。
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