愛されていると勘違いしそうなのでこれ以上優しくしないでください【コミカライズ原作】


家に帰ると「ただいま帰りました」とリビングに顔を出す。

「今日はずいぶん早いのね。もっと働かなくてどうするの?」

「はい、すみません」

定時で帰れば「早い」、残業をすれば「遅い」と真逆のことを言われる。どちらにせよ、私の答えは「すみません」しかない。

自分の部屋にカバンを置いてキッチンへ入れば、シンクには朝と昼の食器が洗わずに置かれている。それらを洗うことから家事が始まる。

今まで何度もため息をつきたくなった。

全部私がやるの?
どうして?

その疑問にきちんと答えてくれる人はいない。

『居候の分際で口答えとはいい度胸ね』

叔母さんの叱責が飛ぶ。
叔父さんは見て見ぬふり。
お兄さんは我関せず。

この家に私の味方はいない。
ただただ耐え忍ぶしかない。

そんな生活を、もう十年も続けてきた。
逃げたくても逃げられない、意気地なしな私なんて大嫌い。

きっと、逃げよう思えば逃げられる。
だって私はもう子供じゃないから。
社会人として立派にお金を稼いでいるんだもの。
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