愛されていると勘違いしそうなのでこれ以上優しくしないでください【コミカライズ原作】
柔らかく吹く風にのって、桜の花びらがひらひらと舞い落ちる。
綺麗で優しくて、そして儚い。

ぼんやりそれを眺めていると、社長がやって来るのが見えた。
まるで桜の花びらが社長を歓迎しているかのようにひらひらと纏い、どこかの国の王子様みたいだ。

「社長、お疲れ様です。先に始めてます」

「ああ、楽しんでいるようでなにより」

社長は全体を見渡すと、ほんの少し目尻を下げた。
本当に社長は社員思いだと思う。多くは語らないし言葉もかたいけれど、いつも社員と会社のことを考えてくれている。

社長は無愛想だって言う人もいるけれど、今みたいに目尻を下げたりとかほんの少しの表情に、社長の繊細さがあらわれている気がするのだ。

「社長、お弁当どうぞ」

あとひとつ、残っていたお弁当を手渡す。

「幸山さん、ありがとう」

ふ、と落とされた微笑みにドキッと胸が高鳴る。
綺麗な顔で爽やかな笑みはとんでもなく心臓に悪い。
美しすぎて本当に異国の王子様みたいだから。

「相変わらずのイケメンっぷり」

敦子さんがボソリと呟くのが耳に届く。
私は無言で頷き同意した。

「社長、よかったらここどうぞ。やえちゃんの隣空いてますよ」

「えっ?」

まさかの敦子さんの言葉に私は目を見開く。
そんな簡単に社長を誘う――?

なんて思ったけれど、社長と視線が交わりまたしてもドキッと胸が高鳴った。
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