【短編集】  Blue moment

episode1

まだ夜が明けきらないブルーの世界。


(まさ)くん、おはよ。」

樹里(じゅり)、おせぇよ。行くぞ…。」


幼馴染の昌くんの朝練に合わせて登校するこの時間が好き。


きっと、彼はなんとも思っていないだろうけれど、誰にも邪魔されない2人だけの時間。


彼はバスケ部のキャプテンになってから、更にモテるようになった。


学校にいる時は中々話しかけられない…。


だって、いつも女子に囲まれているでしょ……。


バレンタインの時だって、沢山チョコをもらっていたのを知ってるよ。


だけど、まだ、彼女ができたって聞かない。





 お願い。




 このまま、まだ、誰のものにもならないで…。




 私があなたに『好き』って伝える勇気が生まれる日まで…。












くしゅんっ










「大丈夫か? 今日は寒いな…。」

「うん。 寒いね…。」






「あれ?昌くんから甘い匂いがする…。」

「あぁ、お前待ってる間に飴食べた。 欲しい?」

「…え? うん。」




すると突然、昌くんは私の前で立ちどまった。



そっと肩を押さえて顔が近づく……。



そして、ふわっと苺の香りが口に広がった。





 ……え。





 ……えっ!?




ビックリし過ぎて言葉が出ない。





 今、のって……





「今日ってホワイトデーだったよな?」

「うん。 そうだけど…。」








「本命にはキャンディを返すんだろ?」

「うん。 そうだけど…。」





 ……え。





 ……えっ!?






「しっかり味わえよ。もう他に飴、無いからな…。」

「私、バレンタインにチョコあげてないよ?」


チョコは用意したけれど、昌くんを取り囲む女の子たちに(ひる)んで渡しに行けなかった…。


一日中持ち歩いた結果、そのまま家に持ち帰ったのだ。




「…お前の親から貰った。」

「なんで!? いつの間に!?」





 もぉ!お母さんったら!
 勝手なことして!!





「好きな子が俺のためにチョコを用意してくれてたって知って、めちゃくちゃ嬉しかった。」

「今、好きな子って言った?」

「言った。」

「昌くんの好きな子って、わたし!?」

「さっきから、そう伝えてるんだけど。もう一度キスしたら信じる?」





昌くんの大きな手が私の頬をそっと包む。






じんわりと手の温度が伝わり耳が熱くなる。





それから、ゆっくりと唇が触れた。





「樹里は俺の事、どう思ってる?」








 …神様。








 ……私に勇気をください。








「私も昌くんの事が……好き…です。」


「やった。」




昌くんの顔から笑顔が溢れる。










私はこの時間が好き。



誰にも邪魔されず二人で手を繋いで歩くこの時間が大好き。
< 1 / 5 >

この作品をシェア

pagetop