私は普通の恋がしたいだけ
政略結婚なんて普通じゃない
有意義な夏休みを過ごしていた高校3年生のある日

私は衝撃的なことをお父様とお母様から告げられた

それは、

「政略結婚しなさい!」

最初は冗談か何かだと思った

だって、私が普通に憧れているのはお父様たちだって知っている

なのに!

政略結婚なんて、普通じゃない!

それに、同じ裏世界の男の人なんて普通じゃない!

私は普通になりたいの!

何度も抗議をしたのに、受け入れてもらえず遂に顔合わせ当日になってしまった…

今からでも、家を抜け出してやろうか

そんなことを考えながら、ベットにうずくまっている

今日この頃である

『コンコン』

部屋の扉がノックされた

「はーい、どうぞ」

「失礼します」

そう言いながら、上田さんが入ってきた

上田さんは私が小さい頃から、お世話をしてくれている

この家の家政婦的な方だ

「お嬢様、起きてください。間に合いませんよ」

「ゴホッ、ゴホッ…上田さん、どうやら私体調が優れないみたいなの、お父様に今日は行けないと伝えてもらえないかしら」

どうだ…

私の風邪気味作戦は

「嘘つかないでください、お嬢様の嘘くらい見破れますよ」

半ば呆れながら、話す上田さん

どうやら、この作戦は失敗のようだ

「朝御飯なので、早く降りてきてくださいね」

私を置いてけぼりにして、部屋から出ていった

次は何の作戦をしましょうかしら

大広間に行くと、いつもは組員がいるはずなのに今日はいない

上田さんが広い食卓に私の朝御飯を並べていく

「上田さん、皆は?」

「皆さんは本日の顔合わせの準備が色々とあるようで朝早く食べて、出ていかれましたよ」

へー

まぁ、極道同士の顔合わせなのでそれなりの安全確保などの準備がいるのだろう

なんか、こんなに皆が頑張ってくれてるのにぶち壊すのは申し訳ない気もする

だけど、普通がいいんだもん!

ごめんね、皆

朝御飯を食べて、今日着ていく服を選ぶ

どれにしましょうかしら

ピンクのこのワンピース!

これで生意気お嬢様を気取って、相手から断ってもらいましょう!

私って天才だわ!

『コンコン』

「はーい」

「あ~ら、可愛いじゃないの小雪ちゃん!流石、私と樹さんの娘だわ~」

そう言いながら、着物で着飾ったお母様が入ってきた

「お母様もお綺麗よ」

どうやら、この縁談にやる気満々のようだ

はぁー

お母様くらい、私の味方してくれたっていいじゃない

そう思いながら、お母様を睨む

「あら、そんな怖い顔をしてもダメよ
顔合わせは絶対に連れていきますからね」

満面の笑みでお母様が言ってくる

「お母様は意地悪ですわ」

「それは、産まれたときからだから直せないわ
準備ができたら、降りてくるのよ~」

そう言って、部屋から出ていった

行きたくないけど、仕方なく準備する

髪の毛を巻いて、可愛くお化粧をする

香水をこれでもかと振り撒いて準備完了

よしっ!

本日のテーマ 嫌われ女のピンクコーデ

玄関で靴を履いていると、お父様の側近の右近さんに

「香水、付けすぎですよ」

と言われたが、

「いいの!今日のテーマだから」

そう言い返し、車に乗った

車に乗るとお母様に右近さんと同じことを言われたから同じように言い返しておいた




会場に着いた

豪華な日本料亭の一室

はぁー

ため息が止まらない

先方の方はまだ来ておらず

お父様とお母様と気まずい空気が流れる

「お父様、今から逃げてもいいですか?」

「ダメだ」

だよねー

「小雪ちゃん、緊張しちゃってるの?」

お母様は絶対に私の気持ちを分かっているくせに

「いいえ、大丈夫です」


「藤堂様がお見えになりました」

襖の向こうから、おかみさんの声が聞こえ

同時に襖が開いた

藤堂…?

あの、藤堂じゃないよね?

「お待たせして、すまない」

「いえいえ、私たちも今来たところです」

嫌な予感は的中

藤堂組、組長とお父様が会話を交わす

あんまり家業に関わらせてもらえない私だって知っている

日本最大のヤクザ

私が失礼なことしたら、家にも迷惑かけちゃう

まぁ、取り敢えず大人しくしておこう

色々と考えていると

「小幸ちゃんかね?」

組長さんにそう話しかけられた

「はい、池田小雪です。父がいつもおせわになっております。」

「礼儀が正しいようで何よりだ」

組長さんと会話をしたあと顔を上げると

目の前に立つ、私のお見合い相手と目が合う

…イケメン

目の前にいるのは、芸能人じゃないか

そう思うほど、かっこいい

「はじめまして、小雪さん
藤堂龍治です」

「はじめまして」

軽く自己紹介を交わし、お食事をしながらの顔合わせが始まった

とは、言ってもお父様達が話しているだけで私と龍治さんは
相づちをしたり、たまに話を振られたら答えるだけで終了

よしっ!帰れる!

心のなかではガッツポーズ

「せっかくだから、小雪ちゃんと龍治さん2人でゆっくりしてきたらどう?」

お母様、?

苦笑いを浮かべながら、お母様を睨むけど

効果はなし

龍治さんお願いだから断って!

失礼を承知で龍治さんに目で訴える

すると、不適な笑みを浮かべて

「えぇ、そうします」

終わった…

最悪だ。

お母様達は部屋から出ていき、龍治さんと2人になった

もう、こうとなったら

全部どうでもいい

めちゃくちゃにしてやるー

「さっき目で断れって言ったのわかりましたよね!?」

「えっ!了承しろってことかと思った」

は?

龍治さんはからかうように不適な笑みを浮かべる

うざい!

何なのこの男!

「この際はっきり言います!私はあなたとは結婚しません!」

「俺はお前と結婚する」

「なんで?」

「気に入ったから」

意味がわからない

初対面で好きでもないのに、気に入ったから結婚する?

しかも、こいつさっきまではニコニコ王子様のように振る舞っていたのに2人きりになると態度が全然違う

「そもそも、なんで縁談受けたんですか?」

聞いたところによるとこの縁談を先に持ちかけたのはお母様だ

「親父が結婚結婚うるさかったから、ちょうど目に止まったのがお前の見合い写真だったから」

は?

私のこの美貌が好きとか、そういうのじゃないの?

たまたま?

ほんとになにこいつ

「その写真見て、可愛かったからでしょ」

「は?」

「は?」

こっちがは?だは

「だから、私のお見合い写真が可愛いから目に止まったんでしょ!」

「ハハハ」

は?

なんで、こいつこんなに大爆笑してんの!

「なによ!私はそこら辺にいる芸能人よりかわいいわ!」

自分で言うのもなんだが、本当に可愛い

可愛いというか、綺麗のほうが合っていると思う

お母様から受け継いだこの美貌

体だって、出るとこはちゃんと出てるし引っ込むところは引っ込んでる

「お前、自分のお見合い写真見たことあるのか?」

腹を抱え、笑いながらそう聞いてくる

「ないわ」

そもそもお見合いのことも私の希望じゃない

けど、お母様ならきっと私の1番可愛い写真にしてくれたと思う

「見せてやるから、怒るなよ」

そう言い、スマホの画面をこっちに向ける

「!なによこれ!!!!」

私が五歳の時の鼻水を垂らしながら泣いてる写真

お母様はふざけてるの!?

「これが目に止まらないはずがないだろ?」

「消して!」

彼のスマホを奪おうとするとひょいと腕をあげられ届かない

なんとしてでも奪ってやるんだから!

彼のスーツを掴んでジャンプするも届かない

いきなりそんなことをするから、龍治さんはバランスを崩して倒れる

「ぐぇ」

もちろんスーツを掴んでいた私も倒れた

彼を襲うような形で

変な声を出してしまった

「大胆だなぁ」

ニヤニヤと笑いながら私を見る

急いで、彼の上から降りる

写真は諦めよう…

「ごめんなさい」

私のせいで転んだので一応謝っておく

「フッ、このくらい大丈夫だ」

こいつ私の謝罪に対して笑った!?

「ほんと、なんなの?」

「?」

私の質問に彼は?を浮かべて、首をかしげる

「なにがしたいわけ?」

「小雪と結婚」

「私は普通に生きたいの!」

「無理だろ、極道の家に生まれた時点で」

「なんで、そんなこと言うの…」

自分でもそれはわかってる

物心つく前から護身術や銃の扱い、裏世界のことをたくさん教え込まれた

極道の娘ってだけで友達は出来ないし、なにもしてないのに命が危険にさらされる

銃が扱えて、男相手に多少は殴りあえる女子高生が普通じゃないことなんてわかってる

けど、誰かに無理なんて言われたことなかった

組の皆はどこか悲しい顔をしながらもそうですかって話をたくさん聞いてくれた

初めて人に否定されて、普通が無理と再認識して

訳もわからず泣き出してしまった

「ちょ、泣くなって悪かった」

「わるいどが、ヒクッ…おもっでないぐぜに~」

きっと、今の私はあの五歳の時の写真と同じくらい不細工なんだろう

「もう、めんどくせーな」

龍治さんはめんどくさいとか言いながら、私を腕のなかに閉じ込めてなにも言わずに背中をさすってくれる

彼の手は暖かくて、彼はムスクの大人男性の香りがした

どれくらいたっただろう

涙も止まり顔を上げる

「フッぶっさいくだな」

そう言いながら、ハンカチを渡してくれる

不細工と言われた少しの反抗心でハンカチで鼻をかんで鼻水まみれにしてやる

目の前の彼のスーツに目をやると、涙と鼻水でくちょぐちょだ

やらかした、

「これくらい、大丈夫だ
小雪とハグできたから許してやるよ」

ん?

「変態!」

彼の腕の中から、逃げた

でも、流石に良さげなスーツを汚して気が引ける

鼻水だらけのハンカチを自分の鞄に入れ

彼の腕を引っ張って店を出ていく

「何処に行くんだ?」

変態のことなんか無視だ無視

目の前に知らない車が止まる

不審に思うと

「うちのだから、大丈夫だ」

龍治さんがそう言い

私を車に押し込んだ

「お帰りなさい、若」

運転席にはこれまたイケメン

「あぁ」

運転手を見つめていると

「おい、俺じゃないやつに見とれてどうする?」

少し不機嫌そうに、龍治さんが言う

「そもそも、あなたには見とれてもないんですけど」

「龍治だ」

「はい?」

「俺はあなたじゃなくて、龍治っていう名前があるの」

言われてみれば龍治さんのことあなたとしか言ってない

「龍治さん」

名前を呼べば満足そうに笑っている

笑ったかお、かっこよすぎだろ

喋らなかったら完璧なんだけどなぁ

「えーと、どちらに向かえばいいですか?」

「適当にスーツを取り扱っているところにお願いします」

運転手さんにそう答える

「では、若のスーツを取り扱っている店に向かいますね」

「お願いします」

そう言うと、車が動き出した

「気にするなって言ったのに」

「私が気になるんです」

人のスーツを汚して気にならないわけがない

クリーニング代を渡せばよかったが、あいにく現金を持ち合わせていない

車の中で龍治さんは運転手の人を紹介してくれた

龍治さんの運転手で健さんという方らしい

龍治さんが小さい頃から側に居てくれる人なんだって

色々話してると、お店に着いた



「ちょっと、待ってて下さいね」

健さんはきっと安全確認のためにお店に行った

「どっかと抗争でもしてるの?」

じゃないと、たかが買い物でわざわざ安全確認なんてしない

「いや、一応だ
小雪がいるし、護衛は健しかいないから何かあってでは遅いしな」

日本最大とまでなると大変だなぁ

「でも、私自分のことは自分で守れるから安心してね」

極道の娘なので、それなりの護身術くらいならできる

それに、鞄の中にはいつものように銃がある

「自分の女くらい自分で守れねぇとトップになんて立てねぇよ」

そう言いながら、ワシャワシャ頭を撫でてきた

ドクドクと音を立てる私の心臓

ぐちゃぐちゃにされた髪の毛を直していると健さんが戻ってきた

「どうぞ」

そう言われ、車を降りてお店に向かう

お店にはいると

「いらっしゃいませ、藤堂様」

女の店員さんが龍治さんに頬を赤く染めながら接客をする

罪な男だよ

突然ギュッ握られた手

驚いて、龍治さんを見るとニヤニヤとまた不適な笑みを浮かべている

「小雪、選んでくれるんだろ?」

店員さんを無視して、私に話しかけてくる

失礼すぎじゃない?

「龍治さん、店員さんに選んでもらったら?
お代は私が払うので気にせず」

「俺は小雪が選んだスーツがいいの」

お店の中にいる店員さんとお客さんの視線が刺さる

早く逃げたい

「わ、わかった」

お店の中を見て回る

その間も龍治さんと繋がれた手は離してもらえない

私は龍治さんに似合いそうで、使い勝手のいい黒いスーツのジャケットとパンツ、白いシャツに黒いラインが入っているワイシャツ、黒いネクタイを選んでお会計した

ジャケットとパンツは龍治さんのサイズに合わせて後日郵送という形で、ワイシャツとネクタイを受け取りそのままどうぞと龍治さんに渡した

「ありがと、着替えてくるから待ってろ」

そう言って、更衣室に消えていった

「若のあんな嬉しそうな顔見るの久しぶりです」

健さんが嬉しそうに微笑みながらそう言う

「嬉しいなら、何よりです」

龍治さんはすぐに着替えて出てきた

かっこいいなぁ

「どう?似合ってる?」

「顔がいいので、何着ても似合ってますよ」

あ、口が滑った

「ンフフ、惚れた?」

満足そうに笑いながら、また私の手を繋いで店を後にした



















< 1 / 14 >

この作品をシェア

pagetop