愛しのディアンヌ
 子供の頃から、こうやって家族の肩や腕をほぐすことが好きだった。芝刈り後の兄の筋肉の軋みこうやって解消してあげていた。

 私は、肩のラインをなぞりながら告げていく。

「頭や目が疲れるのは肩凝りのせいなんですよ。特に右肩がひどいです……。血行不良ですね。同じ姿勢で座っているとこうなります」

「ああ、気持ちいいな。ディアンヌ、君の指は俺の気持ちいいツボををよく分かっているね」

 意味深な台詞にドキリとなる。私は感情が顔に出るタイプだ。

「この部屋はディアンヌの匂いがする。俺の世界はディアンヌで溢れている」

 そう言うと、私の腰を引き寄せてキスをした。 

 水煙草を吸いながら、故郷を思い浮かべる寵后達がハレムにはたくさんいたようだ。

 金糸で彩られた豪華なドレスを身につけたまま、ナツメヤシを使ったデザートに手を伸ばして涙ぐむ。豪華絢爛なハーレムでは女達は、どんな夢を見たのだろう。

「ディアンヌ、ディアンヌ……。俺だけのディアンヌ……」

 フゥッと、彼に吸い込まれるような感覚に陥っていく。

 街灯を灯す時刻になっている。集荷市場から帰る老人が、驢馬の背に売れ残ったキャベツを手押し車に積んで移動している。字路に荷担ぎ人が大勢溜まっている。ルイージが腰に手を回しながら言った。

「愛してるよ……」 

  向かいの住人がカーテンを開いたら丸見えになってしまう。でも、止められない。抱き締められると心地いい。
  
「わたしも愛してます」

  私は熱い吐息を漏らしながら微笑んだ。

           ☆

 ディアンヌ。君は最高の女性だ。俺はすっかり夢中になっている。

 行き詰っていた俺は寝る前にマッサージを受けた。酒は一滴も飲んでいないというのにホワンと酔ったような夢見心地になる。いつも、ディアンヌは全身全霊で尽くしてくれる。

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