愛しのディアンヌ
16 衝突
 ズキンッ。ズキンッ。頭部の鈍い痛みによって目覚めた。眩暈かする。まだ駄目だ。立ち上がれやしない。少し時間がたって意識が定まると、両手と両足を粗末な縄で縛られている事に気付いて愕然となった。

 ここはどこ? 周囲は乾いた草の匂いがする。薄暗い。何がどうなっているのか分からない。

 困ったな。身体を起こすのも一苦労。絶望的な気分になる。

 やだ……。どういう事なのよ。何なのよ? 

 縄の結び目は固かった。

 地べたを這いまわる芋虫のような格好のまま放置されている。しかも、上着を脱がされていた。そして、裸足だった。靴も脱がされているようである。

 拉致監禁。なぜ、彼女はこんなことをするのかしら?

 農機具や肥料といったものが見える。どうやら、私は納屋に放り込まれているらしい。唐突に、木戸がカタンと開いたかと思うと、長身の女性のシルエットが目に入った。

 横向きのまま瞳を眇めて何とか焦点を定めようとする。私を見下ろす彼女は黒いガウンを身に纏っていたのだ。

「ようやく起きたのね。眠っていたのはほんの一時間よ」

 私は、藁にまみれた半身を起こしていた。そして、頭にこびりつく痛みに耐えながらグっと歯を食いしばっていく。

 木箱にもたれるようにして座りながら姿勢を保つしかない。彼女は苛々したように言った。

「あなたはジョルジュではない。本当の名前はディアンヌでしょう? 男の子のフリをするなんて汚らわしいわね。色々と彼に付きまとって、うまく取り入ったようね」

 カンテラの明かりをかざしながら、もう一歩、こちらに向かって近寄ってきた。そして、睨みつけている。

「彼が街に来て以来、ずっと彼の動向を見張っていたのよ。彼と、やけに仲がいいジョルジュという少年が、実は女だと分かった時は死ぬほどに腹が立ったわ」

「ずっと見張っていたんですか?」

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